リード文(導入) 絶縁手袋の点検は、安全のためとはいえ手間がかかるものです。「点検不要」の絶縁手袋を探している方もいることでしょう。確かに一部の絶縁手袋は法令上の定期自主検査(6ヶ月ごと)の対象外ですが、これは「点検を一切しなくて良い」という意味ではありません。本記事では「点検不要」の本当の意味を解説し、安全に使うためのポイントと該当製品の特徴を紹介します。
そもそも“点検不要”とは?メンテフリーではなく“法的フリー”の意味

まず、「点検不要」と言われる絶縁手袋の真意を押さえましょう。これは法律上定められた定期点検義務がないことを指し、決して「全く点検しなくても安全」という意味ではありません。法律に基づく定期検査を省略できる範囲は限られており、対象外であっても日常点検は別途必要です。
「点検不要=定期自主検査の対象外」という正しい理解
労働安全衛生法により、活線作業で用いる絶縁手袋には6ヶ月ごとの定期自主検査(耐電圧試験)の実施が義務づけられています。ただしこれは交流300Vを超える電路で使う手袋が対象で、交流300V以下(直流750V以下)の低圧用絶縁手袋については法定の定期検査義務がありません。いわゆる「点検不要」とは、この定期自主検査の対象外であることを指しています。根拠となる規格は「絶縁用保護具等の規格」(厚生労働省告示第44号)で、JIS T8112の区分に基づき電圧区分ごとに検査要否が決まっています。
絶縁手袋で法的に“点検不要”とされる範囲は限定的
前述の通り、法的に定期検査が免除されるのは低電圧用に限られます。具体的には使用電圧が交流300V以下または直流750V以下の絶縁手袋が該当し、それ以上の電圧で使う手袋は全て6ヶ月ごとの耐電圧試験が必要です。以下の表に電圧区分と定期検査義務の有無をまとめました。
| 使用電圧の範囲 | 定期自主検査 | 例 |
|---|---|---|
| 交流300V以下 / 直流750V以下(低圧) | 不要(対象外) | ワタベ507型など低圧用手袋 |
| 交流300V超える電路 | 必要(6ヶ月毎) | 7kV用ゴム手袋(ワタベ540型)等 |
※上記は法定検査の要否であり、安全のため使用前点検や自主的な試験は低圧用であっても推奨されます。
絶縁手袋には「定期自主検査対象」と「対象外」がある

現場で使われる絶縁手袋は、大きく法定の定期自主検査が必要なものと対象外で検査不要とされるものに分かれます。これは製品の対応電圧によって分類され、規格上もクラス分けされています。ここではその違いと根拠を見てみましょう。
定期自主検査は「絶縁用保護具等の規格」に基づく義務
厚生労働省告示第44号「絶縁用保護具等の規格」では、絶縁手袋の性能区分が定められています。労働安全衛生規則により、交流300Vを超える電路で使う絶縁手袋はこの規格に適合した製品を用いる必要があり、さらに6ヶ月以内ごとに1回の絶縁性能検査を実施する義務があります。例えば高圧用手袋(使用電圧7,000V以下用)は半年ごとに耐電圧試験を行い、所定の電圧を1分間印加して異常がないか確認しなければなりません。このように国家規格に基づく点検が事業者に課されている点が、「点検不要」手袋との大きな違いです。
対象外となるのは低電圧作業向け(AC300V以下/DC750V以下)の製品
一方で、低圧用(交流300V以下・直流750V以下)の絶縁手袋は法律上は定期自主検査の対象外です。JIS T8112ではこの範囲が「クラスJ00」として規定されており、使用可能な最大電圧内(300V以下)であれば法定の耐電圧試験は義務づけられていません。ただし対象外=安全確認不要ではない点に注意が必要です。後述するように、使用前の点検や必要に応じた自主検査は低圧用手袋でも欠かせず、事業者によっては独自に交換基準や試験ルールを設けて安全を確保しています。
“点検不要”でも使用前点検は絶対に必要

法定の定期検査が不要な絶縁手袋であっても、作業者自身による使用前の点検は必須です。絶縁性能は経年劣化や損傷で低下するため、毎回の作業前に異常がないか確認しなければなりません。「点検不要」の製品でも「何もしなくてもずっと安全」ではないことを肝に銘じましょう。
外観異常(硬化・ひび割れ)があれば使用禁止
絶縁手袋は使用のたびに外観チェックを行う習慣が重要です。着用前に手袋の外観をくまなく点検し、ひび割れ、裂け、穴あき、硬化やベタつきなどの異常がないか確認します。汚れがひどい場合は見落としの原因になるため、中性洗剤を薄めてよく拭きとり、陰干しした後に点検、使用してください。僅かな傷や劣化でも感電事故に直結する可能性があるため、少しでも異常を発見したら使用年数に関わらず直ちに使用中止し、新しい手袋に交換するのが原則です。このような使用前点検の徹底こそが事故を未然に防ぐ第一歩と言えます。
検査対象外でも“安全確認”を省略できない理由
定期検査が免除されている低圧用手袋でも、安全確認を怠ってはいけない理由があります。まず、法定検査対象外とはいえ絶縁性能が永久に保証されているわけではないことです。ゴム・樹脂製の手袋は使用や保管中に徐々に劣化します。仮に新品時に高い耐電圧性能があっても、時間の経過や摩耗で性能低下する可能性があるため、日々の点検と適切な保管・手入れが欠かせません。
事業者の安全意識が高い現場では、対象外の手袋にも自主的に定期試験(耐電圧試験)を実施するケースがあります。例えば半年ごとにメーカーや専門機関へ任意の耐圧検査を依頼し、合格したものだけを引き続き使う運用も行われています。また、一定期間(例えば6ヶ月)ごとに全数交換を実施している事業者も少なくありません。このように「点検不要」でも必要に応じた安全確認を省略してはいけないことを覚えておきましょう。
定期検査対象外(点検不要)の渡部工業製品ラインアップ
ここからは、法定の定期自主検査が対象外=点検不要となる絶縁手袋の具体例として、渡部工業(ワタベ工業)の代表製品を紹介します。いずれも交流300V以下(直流750V以下)専用で、高い安全性を確保しながら法定点検の手間を省ける低圧用モデルです。それぞれ厚みや構造が異なり作業性に特徴がありますので、用途に合わせた選定の参考にしてください(※法定点検は不要ですが使用前点検は必要です)。
| 型番(渡部工業) | 厚さ(mm) | 材質 | 構造・特徴 | サイズ展開 |
|---|---|---|---|---|
| 507型(標準) | 1.1 | 天然ゴム | 単層構造:標準的厚みで耐久性◎ | 小・大・特大 |
| 505型(薄手) | 0.5 | 天然ゴム | 単層構造:507の約半分の厚みで細身設計 | フリーサイズ |
| 506型(一体型) | 1.0 | ウレタン+天然ゴム | 二層構造:外層カバー一体成型で絶縁層を保護 | S・M・L |
507型|スタンダードモデル。最も汎用的で多くの現場で採用

507型はワタベ工業の低圧用ゴム手袋におけるスタンダードモデルです。厚さ約1.1mmの天然ゴム製で3サイズ展開となっており、汗取りインナーグローブを併用しやすい設計です。耐久性と作業性のバランスに優れ、日常点検から一般作業まで幅広く対応できる扱いやすいモデルとされています。EV・HV車の整備や電気工事全般まで、低圧作業ならオールラウンドに活躍します。切創等による手袋の損傷が想定される現場ではカバー(オーバーグローブ)の併用が推奨されます。
505型|507よりも薄手で細身。感覚重視の作業者に最適

505型は先述の507型と比べて厚みが約半分(実測0.5mm程度)の薄手タイプです。指先も細身に設計されており、配線の引き回しや小ネジ・端子の取り付けなど指先の繊細な動きが要求される作業に力を発揮します。裏面(内側)にはシボ加工が施されていてサラッとした肌触りのため、汗をかいても脱ぎやすい工夫がされています。厚さが薄い分ゴム特有のフィット感が高く、「手の感覚」を重視する作業者に最適なモデルです。507と同様に、切創等による手袋の損傷が想定される現場ではカバー(オーバーグローブ)の併用が推奨されます。
506型|切創から絶縁層を守りつつ高い作業性を実現したカバー一体型


506型は独自の二層構造によって、絶縁性能と耐久性を両立したモデルです。外側に保護カバー、内側に絶縁層を一体成型しており、手袋自体にカバー機能を備えています。この構造により、作業中に鋭利なエッジや部品のバリへ触れても外層が擦れや傷を受け止めて内側の絶縁ゴム層を保護できるのが強みです。工具や部品との接触が多い工程や、繰り返し摩擦が発生する作業でも、別売りカバーを装着した場合に比べ作業性の損失を最小限に抑えられるよう工夫されています。
素材には耐油性・耐摩耗性に優れた基布入りのウレタン樹脂を採用し、厚さ約1.0mmながらも柔軟性があります。手袋のずれを防ぐマジックテープ式のベルトも備えており、フィット感も良好です。低圧配電線路の活線作業や、自動車整備において「カバーなしだと不安、でも厚手のカバーだと作業しづらい」という現場に最適なソリューションと言えるでしょう。
【まとめ】“点検不要”とは“何もしなくても安全”という意味ではない
「絶縁手袋の点検不要」とは、法令上の定期自主検査義務がないことを示す専門的な表現です。決して「点検やメンテナンスを一切しなくても安全に使い続けられる」という意味ではありません。実際、交流300V以下対応の手袋であっても、使う人自身が毎回の使用前点検を行い、異常を感じたら速やかに交換する姿勢が求められます。
安全第一で使用するためには、法定検査の有無に関わらず日々のチェックと適切な保管・手入れを徹底し、異常や劣化の兆候を見逃さないことが肝心です。点検不要グローブはメンテナンスの負担を軽減できますが、「何もしなくても絶対安全」な製品は存在しない点に注意しましょう。法律上の義務を正しく理解したうえで、自主的な安全管理も組み合わせることが、絶縁手袋を安心して使い続けるための秘訣です。










