特高用の絶縁手袋は本当にある?国内規格の限界と海外製品に潜むリスク


特別高圧(一般に7,000V超の電圧領域)で使用できる絶縁手袋は存在するのでしょうか?国内の電気絶縁用保護具に関する規格では、最大使用電圧7,000Vまでの手袋しか定められておらず、これを超える電圧への対応は想定されていません。海外製の絶縁手袋が市場に出回っており、うっかりそれを“特高用”と誤認してしまうケースもあります。

本記事では、国内規格の定める種別とその限界を整理し、特別高圧領域での手袋使用についての法的な位置づけと、海外製品を安易に使用することのリスクについて解説します。安全確保のために正しい知識を身につけ、誤った判断による事故や違法行為を防ぎましょう。

目次

特別高圧対応の絶縁保護具は国内規格に存在しない

特別高圧(7,000V超)に対応した絶縁手袋や防具は国内の規格上、存在しません 労働安全衛生法に基づく「絶縁用保護具等の規格」では、最大でも7,000V以下の電路で使用する保護具までしか種類が定められていません。言い換えれば、国内規格では特高用の絶縁保護具は想定されていないということです。高圧用までの保護具しか型式検定が行われていないため、仮に「特高対応」を名乗る製品があっても国内では正式な認証を受けられないのが現状です。

電気絶縁用手袋の国内規格と使用可能な電圧範囲

JIS T8112:2014(電気絶縁用手袋)では、日本国内において最大使用電圧7,000Vまでの電気絶縁用手袋が規定されています。従来のA種・B種・C種という3区分から改定され、現在は使用電圧に応じてJ00からJ1まで4つのクラス(種別)に分類されています。以下の表に各クラスの最大使用電圧(定格)と試験電圧(交流で1分間耐えられる電圧)をまとめます(JIS T8112:2014に基づく)。

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クラス最大使用電圧 (定格)試験電圧 (交流1分間)
J00300V(交流・直流)1,000V
J0600V(交流)・750V(直流)3,000V
J013,500V(交流・直流)12,000V
J17,000V(交流・直流)20,000V

表から分かるように、クラスJ1(定格7,000V)が国内規格の上限であり、これを超える電圧(特別高圧)に対応した手袋はJIS規格上存在しません。

特別高圧領域では絶縁手袋が使えない理由

7,000Vを超える特別高圧の電路を扱う作業では、絶縁手袋による防護は国内規格の範囲外です。実際、法令上も労働者を感電から保護する方法として絶縁手袋の使用は特別高圧では想定されていません。代わりに他の保護措置を講じることが義務付けられており、手袋単体で特別高圧に立ち向かうことはできない仕組みになっています。

特別高圧活線作業に求められる安全措置(労働安全衛生規則)

特別高圧の活線状態での作業については、労働安全衛生規則によって以下のような措置を講じることが事業者に課せられています。

労働安全衛生規則 第344条(特別高圧活線作業)
事業者は、特別高圧の充電電路又はその支持がいしの点検、修理、清掃等の電気工事の作業を行なう場合において、当該作業に従事する労働者について感電の危険が生ずるおそれのあるときは、次の各号のいずれかに該当する措置を講じなければならない。
一 労働者に活線作業用器具を使用させること。この場合には、身体等について、次の表の上欄に掲げる充電電路の使用電圧に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる充電電路に対する接近限界距離を保たせなければならない。
二 労働者に活線作業用装置を使用させること。この場合には、労働者が現に取り扱っている充電電路又はその支持がいしと電位を異にする物に身体等が接触し、又は接近することによる感電の危険を生じさせてはならない。

ご覧のとおり、特別高圧下で労働者を感電から守る手段として挙げられているのは「活線作業用器具」または「活線作業用装置」の使用であり、絶縁用手袋(絶縁用保護具)については一切言及されていません。これは、特別高圧の領域では人が直接手袋を着用して触れる作業自体を想定していないことを意味します。

仮にJIS規格外の手袋を入手できたとしても、法律上その手袋を頼りに活線作業を行うことは認められておらず、実質的に「特高用の絶縁手袋」は国内では存在しないと言えるのです。

海外規格の高電圧用手袋と誤認に対する注意点

海外には、日本のJIS規格の上限を超える高電圧に対応した絶縁手袋が確かに存在します。例えば国際規格IEC 60903では、クラス4という区分で最大使用電圧36,000Vの絶縁手袋が規定されており、アメリカASTM規格でも同等の高電圧用手袋が定義されています。こうした海外製品がインターネット等で紹介されているのを目にすると、一見「特別高圧でも使える手袋があるのでは?」と思ってしまうかもしれません。しかし、安易にこれらを国内作業に流用することには重大なリスクがあります。

海外製の高電圧対応手袋を使用するリスク

海外には、日本国内よりも高い電圧に対応した絶縁手袋の規格が存在します。例えば国際規格IEC 60903では交流36,000V(直流54,000V)まで使用できる電気用手袋が規定されています。そのため海外メーカー製で「15kV対応」「最大35kVまで使用可能」などと宣伝されている絶縁手袋が市販されていることもあります。しかし、そうした製品は日本の規格・法令上は承認されていない点に注意が必要です。

また、製品信頼性とアフターケアの問題も考えられます。海外規格品は国内での流通ルートや品質保証体制が限定的です。日本では後述するように絶縁手袋に定期検査が義務付けられていますが、海外から個人輸入した手袋は安全に製品を使い続けるために遵守すべき法令が何もありません。

以上の点から、「特高用」とうたう海外製手袋があっても、それを鵜呑みにして現場で使用するのは極めてリスキーだと言えます。絶縁用具は命を預ける最後の防護手段です。規格外の製品に頼るのではなく、国内で認証された方法・機材による安全策を徹底することが重要です。

まとめ: 特高作業は必ず停電し、安全最優先で対応を


特別高圧用の絶縁手袋は国内規格上存在せず、特高の活線作業では絶縁手袋以外の方法で感電防止を図る必要があります。海外製の高電圧手袋が入手できても、日本の法規や検定を満たさないものは安全装備として認められないことに注意しましょう。法令や規格に準拠した絶縁手袋であっても定期検査と日常点検を怠らず、疑わしい状態での使用は避けてください。正しい知識と確実なメンテナンスに基づき、電気作業の現場で自分自身と周囲の安全を守ることが何よりも大切です。

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